……ふん。
今年も俺は、あの場に立っていた。
元競輪選手として、今はただメカニックとしてな。

会場を見渡せば、いつもの光景だ。
アマチュアの群れの中に、プロの連中が紛れ込んでいる。
普段は競輪場で牙を剥く狼どもが、妙にリラックスした面構えでマシンにまたがっている。
だがな、スタートラインに立てば一瞬で変わる。
あの目だ。獲物を前にした獣の目。
胸を借りるなどと生易しい言葉じゃねえ。あいつらは本気で食い散らかしに来ていた。
プロがマスターズに出ることなど、世間じゃ賛否が渦巻くらしい。
意味ねえ、と吐き捨てる奴もいる。
「なんでそんなことするんだ」
と嘲る目もある。
俺は昔、そう言われた側だった。
だが、そんな言葉など、ディスクホイルの音にかき消される雑音だ。
俺は、好きだからやる。
自費でこの大会に滑り込んでくるプロどもは、本物のバカだ。
自転車という機械の、底知れぬ深みにまだ溺れている愚か者どもだ。
アマチュアもプロも関係ねえ。
皆、同じ地獄の匂いがする。
ただ純粋に、速さを、限界を、機械と己の魂を追い求めているだけだ。
そこに差などない。
差など、最初から作る必要などない。
Dogs……お前ら、なかなか良い目をしていた。
リラックスした顔の下に、ガチの牙を隠し持ったまま走る姿は、悪くなかった。
むしろ、久々に胸が熱くなったぜ。このマスターズという舞台は、ただのレースじゃねえ。
自転車を愛しすぎた者たちが、己の限界と向き合うための、
静かな地獄だ。
俺はメカニックとして、ただその地獄の片隅でマシンを弄りながら思う。
……まだ、俺たちは終わっていない。好きだからやる。
それだけだ。それで十分だろう?
TOSHIだ。
