TOSHIだ!
今日もいつもの河川敷を、グラベルバイクで刻んでいた。
砂利の噛む音を低く響かせ、アスファルトから土手へ。
夏の陽炎が揺れる中、ふと頭をよぎった一言。
「今日は暑い……川を渡ってみるか」
コンクリートで固められた浅瀬にタイヤを沈めた瞬間、即座に苔が俺のタイヤのグリップを奪った。
滑った。コケた。
……笑えたよ。まだ序盤だと思ったからな。流れは弱かった。
だから「もう少し」と真ん中へ進んだ。
そこで……世界が変わった。足が立たない。
グラベルバイクの重みが、急流に引っ張られる。
ハンドル握ったまま、地面が消えたような感覚。
自転車を担いだ瞬間、俺は理解した。
これが地獄の入り口だ。わずかな油断、わずかな好奇心、わずかな「まだいける」という驕り。
それだけで、川は容赦なく俺を飲み込もうとした。
戻るのも面倒だと足を踏み出したその一歩が、死の淵へのアクセルだった。トラックを走る者なら知っているはずだ。
マシンの限界、路面の変化、わずかな隙間から訪れるクラッシュ。
自然も同じだ。見た目で判断できるほど、甘くはない。
浅く見えた水面、苔、急流。
警察庁のデータが語る数字は冷たい。令和6年、全国で1,535件の水難事故。
1,753人が水に絡まれ、816人が二度と戻ってこなかった。
その35%以上が河川だ。
特に夏――俺たちのような「川の魔力」に吸い寄せられる奴が増える季節に、事故は集中する。
水遊び、釣り、ただの「ちょっとだけ」の好奇心。
すべてが同じ、一瞬の判断ミスで終わる。
俺はメカニックだ。
メンタル鬼畜と呼ばれた男が、こんなところで死ぬわけにはいかない。
自転車を担ぎ、流れに抗いながら、俺は静かに呟いた。
「……こうして、事故は起きる。」
一歩一歩、魂を削るような渡河。
無事に岸に着いた時、俺の心臓は高回転で警告を続けていた。
次はない。
このメンタルを、この体を、もっと深くチューニングし直さなければならない。
教訓はシンプルだ。
- 浅瀬に見えても、苔は常に潜んでいる。
- 「もう少し」は、死のアクセル全開だ。
- ライフジャケットを着けろ。まるでプロテクターのように。
- 限界を感じたら、即座にやめろ。引き返す勇気こそが、真の強さだ。
お前たちも、河川敷でもがき入れるなら覚えておけ。
川は、トラックより残酷な相手だ。
一瞬の油断が、取り返しのつかない結果を招く。
そうだ、クラッシュにセカンドチャンスはない。
……俺はもう二度と、あの「ちょっとだけ」の誘惑に乗らない。
己の限界を、もっと冷徹に見極めるために。
走り続けるために。
TOSHIだ。