1月10日、11日。
東京へ、魂を込めて走るための「一本」を届けるために。
依頼主は、東京所属のガールズ競輪のレジェンド——中村由香里さん。
競輪選手養成所受験生のお弟子さん用のフレームだ。
中村さんは2013年ガールズグランプリ優勝を筆頭に、ガールズケイリンの黎明期を牽引し、今なお現役として第一線で戦い続けるトップレーサーです。
そんな方が、自分の大切な弟子のために出したオーダー。
「何一つ妥協していない、完璧な仕上げを」
その言葉の重さ。
何人も弟子を育て、競輪という厳しい世界で勝負の意味を知り尽くした人が口にする言葉だからこそ、胸にずしんと響きました。どうしても合格させたい。
その想いが、フレーム選びからジオメトリー、コンポーネントの組み合わせまで、全てを貫いていました。
私も負けていられません。
これまで積み上げてきた知識、実績、そして何より
「この子が人生を懸けて戦えるマシンにしなければならない」
という覚悟。もちろん、いつも不安はあります。
写真と動画を何十枚も送ってもらい、データを睨み、シミュレーションを重ね、
「このパターンはこれだ」「彼の体型とペダリングにはこれがハマる」と設計を固めていく。
でも本音を言えば、
実際に組み上がって、彼が跨って、走ってみないとわからない。
それが自転車作りであり、勝負の道具作りのリアルです。
10日、東京に到着。
今まで乗っていた自転車を受け取り、ホテルの狭い部屋で一晩かけて組み上げました。
完成した瞬間、思わず声が出た。
「……これは、走るな」
フレームのライン、溶接の美しさ、全体から漂う緊張感。
まさに機能美。
80年代、パナソニックがツール・ド・フランスで戦っていた頃のあの有名なコピー
「速いマシンは美しい」
まさにそれでした。心が震えた。
翌11日、京王閣競輪場。
早朝の冷たい空気の中、彼に跨ってもらい、試走。
その表情、変わりました。
「全然違う……!」
フレームの違いはもちろん、私が提案したポジション変更が、驚くほどバッチリ決まっていた。
タイムも、早朝とは思えない数字を叩き出して、こちらが「時計壊れてない?」と笑ってしまうほど。
そして彼が漏らした一言。
「どんどん踏みたくなる感じします」
そう、それだよ。
それなんだよ。自転車と人が完全に調和し、フレームのウィップに合わせ、
ただ「前へ、前へ」と進みたくなってしまう感覚。
これこそが、真の「速いマシン」が持つ魔力です。
正直、羨ましかった。こんな朝から、そんな気持ちでペダルを踏めるなんて。
その瞬間、私の中で確信しました。あの怪物・松坂大輔が、イチローから三振を奪った後に言った言葉。
「自信が、確信に変わった」
ピストなんて、正直言って知識があれば誰でも組めます。
でも、その一台で人生を懸けた勝負に挑めるか。
後悔なく、全力を出し切れるか。
その一瞬の差が、すべてを決めます。
私は今回、その「後悔のない一本」を、確かに届けられたと信じています。
中村由香里さんの想いと、弟子の未来を背負って作ったこの自転車が、
彼の人生の扉をこじ開ける、一番強い味方になりますように。ここからが本当の勝負だ。
走れ、若者。
そして、思いっきり踏み込め。
全力で、踏み込んでくれ。





